医療最前線

健康面・学習面にも影響する「お口ぽかん」が増加中、ガムやグミを活用して咀嚼回数を増やすなど口周りを鍛える習慣が大切に

2022.11.29 20:59 更新

 新潟大学、大垣女子短期大学、鹿児島大学らの研究から、現在、日本の子ども(3~12歳)の約3割が、日常的に口が開いている「お口ぽかん」状態であることが明らかになった。「お口ぽかん」が続くと口や鼻の発達に影響し、健康被害や学習障害などのリスクが高まるといわれている。また、コロナ禍による長いマスク生活が続いたことで、近年では大人の間でも口が閉じられない人が増加しているという。「お口ぽかん」は、自然治癒が難しいだけに、ふだんから口周りを鍛えることが予防や改善につながるとされている。そこで今回、「お口ぽかん」の予防や改善に向けて、口周りを鍛えるポイントを、みらいクリニック院長の今井一彰先生に聞いた。

 「お口ぽかん」は、文字通り口がぽかんと開いている状態のこと。専門用語では「口唇閉鎖不全」といい、口腔機能発達不全症の1つの症状として、2018年から保険治療の対象になっている。日本では、2021年に初めて全国大規模疫学調査の結果が発表された。新潟大学大学院歯学総合研究科小児歯科学分野の齊藤一誠准教授(現 朝日大学歯学部教授)らの研究グループが、大垣女子短期大学歯科衛生学科の海原康孝教授および、鹿児島大学病院小児歯科の稲田絵美講師らと共同で行ったこの調査によって、日本人の子どもたちの30.7%が日常的な「お口ぽかん」を示していることが明らかになっている。

 「お口ぽかん」は、口周りの筋肉を使わなくなることで起こるとされている。主な原因に、食べ物の軟食化が挙げられる。洋食化が進んだことで、特に子どもはハンバーグやオムライスなど、やわらかい食べ物を好むようになった。咀嚼することが減り、口周りの筋肉を使わなくなっているとのこと。

 また、リモート学習や黙食が推奨されたことで、子どもたちは人と会っておしゃべりする機会を失っている。そのため、「お口ぽかん」の子どもは、コロナ禍によってさらに増え続けている可能性があるという。これは大人も同様で、リモートワークの普及によって、人と直接対話をすることが減少している。対面であれば相槌を打ったり笑顔を作ったりすることで、無意識に顔の筋肉を使っていたが、こうした機会が減少している。さらに、常にマスクを着用しているようになり、表情も乏しくなりがちに。こうした状況も踏まえ、子どもも大人も、この数年で「お口ぽかん」は増えていると考えられる。

 「お口ぽかん」を放置して、唇を閉じる力が弱いままでいると、歯を取り囲む唇、頬と舌の圧力のバランスが崩れ、かみ合わせや歯並びが悪くなってしまう。これにともない、咀嚼や嚥下、発語がうまくできない子どもも増えているという。歯並びが悪いと鼻の発達にも影響を及ぼし、鼻詰まりを起こしやすくなる。鼻呼吸がしづらく、ますます口が開いてしまうという悪循環に陥ってしまうとのこと。口呼吸によって口が渇き、唾液が減るとむし歯や歯肉炎になりやすいほか、上気道感染のリスクも上昇する。鼻詰まりによって集中力が低下するため、学習能力や運動能力にも悪影響を与えることが危惧されている。

 大人も子どもと同様、口が開いていると口呼吸になりやすいため、歯肉炎やむし歯などのリスクは上昇するとのこと。いびきもかきやすくなり、集中力の低下によって、仕事のパフォーマンスが下がる可能性も高いといえる。また、口元の筋力が低下し、顔の下半分がたるんでしまったり、ほうれい線が目立ちやすくなるといわれている。

 かみ合わせや口呼吸が定着してしまうと口を閉じることが難しくなってしまうため、さまざまなリスクが生じやすくなる「お口ぽかん」だが、自然治癒が難しいことも特徴だとか。先の研究でも、子どもの年齢が上がるほど有病率が増加している。成人後は加齢にともなう筋力低下によって、「お口ぽかん」はますます加速してしまう。そのため、気づいたタイミングで口周りを鍛えることが重要だという。

 みらいクリニック院長の今井一彰先生は、「お口ぽかん」の予防・改善のために口周りを鍛えるポイントとして、「まず、噛みごたえのある食事をとるよう心がけ、咀嚼の回数を維持してほしい。具材は大きめに切って調理すれば、噛む回数を増やすことができる。食事を水やお茶で流し込んで食べる子どもも増えているが、咀嚼回数が減るほか、消化不良を起こす原因にもなる。『流し込み食べ』はやめて、ゆっくりとよく噛んで食べることが大切。噛むことで唾液がしっかり分泌される」と、食生活で咀嚼回数を増やすことが大切であると指摘する。

 「ただ、普段の食事だけではどうしても噛む回数が不足しがちになる。栄養はサプリメントで補うことができるが、咀嚼は咀嚼でしか補えないため、ガムやグミなどを上手に活用してほしい。グミを用いた実験では、2週間、習慣的にグミを噛むことで、咬合力が有意に増加することが明らかになっている(日本咀嚼学会雑誌 10巻2号(2001)『咀嚼食品の口腔機能に対する効果』から)」と、グミを活用することで咀嚼回数を増やし、咬合力を鍛えることができると訴えた。

 「また、『あ』『い』『う』『べ』と口を大きく動かすことで、口輪筋、広頸筋、舌筋など、口周りの筋肉を効率的に鍛えられる。毎日続けることで自然と口を閉じられるようになり、口呼吸の改善にもつながる」と、「あいうべ体操」で口周りの筋肉をトレーニングするのも効果的とのこと。

 「子どもであれば、シャボン玉や風車を吹くなど、遊びを通して口周りをトレーニングするとよい。口を閉じるためには首の筋肉が発達していることや正しい姿勢でいることも重要なので、外遊びもたくさんさせてあげてほしい。大人であれば、ストレッチや軽い運動などをこまめに行い、猫背にならないよう姿勢にも気をつけてほしい」と、子どもには外で一生懸命遊ばせることが口周りを鍛えることにつながると教えてくれた。


このページの先頭へ